2015年6月15日月曜日

新しい作用機序の睡眠薬、ベルソムラについてまとめ

ベルソムラ

MSD社から昨年2014年の11月に発売されたまったく新しい作用機序の睡眠薬、ベルソムラ(一般名:スボレキサント)。名前の由来は仏語のbelle(美しい)+som(眠り)から。つまり「美しい眠り」ですね。

「習慣性医薬品ではあるが向精神薬に区分されていない、規制しなくて大丈夫か?」との意見もあるようで、デパス(一般名:エチゾラム)やアモバン(一般名:ゾピクロン)と同じ立ち位置。

ベルソムラ錠15mg/20mg 添付文書pdf

ざっくり知っておくべきことをまとめました。


【睡眠薬の歴史】


1950年代にはバルビツール酸系の睡眠薬がスタンダードでしたが、これは危険性が高く今ではほとんど用いられていません。よく昔のドラマなどで「睡眠薬を大量服用して自殺」みたいなシーンがあるのはこれですね。今じゃバケツ一杯飲んでも死なないと言われています。良い子はマネしないように。

1960年代はベンゾジアゼピン系が登場。今でも使われているレンドルミンやロヒプノールですね。1989年には非ベンゾジアゼピン系が登場。マイスリーやアモバンです。

2010年に発売されたロゼレムはメラトニン受容体作動薬であり概日リズムに作用するという、既存のGABA受容体に作用して鎮静する睡眠薬とは一線を画するものでした。

そして2014年に発売されたベルソムラもまた、まったく新しい作用機序です。


【作用機序】


ベルソムラは”オレキシン受容体拮抗薬”であり、その名の通り”オレキシン”の作用に対してネガティブに作用します。

”オレキシン”とは覚醒に携わっている神経伝達物質であり、朝、激しい情動(怒りなど)、空腹時に高レベルで体内に存在します。これにネガティブに作用する=睡眠につながる、ということですね。


【臨床試験の結果】


原発性不眠症患者638例(成人370例、高齢者268例)にベルソムラ錠(成人には20mg、高齢者には15mg)又はプラセボを投与し、1週間、1ヶ月、3ヶ月観察。

結果は、主観的睡眠潜時を平均で15分〜30分短縮し、主観的総睡眠時間を平均で30分〜50分延長。長期間服用した方が効果は高まっていくので、できれば長く続けてほしい(メーカー談)とのこと。

ただ、面白いのはプラセボ投与群でもかなりの効果があったようで。一応有意差はついているものの、多分に心理的なものが影響を及ぼす疾患であると再認識しますね。


【副作用】


最も多かったのは傾眠、頭痛、疲労。異常な夢、悪夢なんてのも。

ベンゾジアゼピン系にあるような健忘や耐性、退薬症候がないのがウリとか。とはいえ、退薬症候の率をプラセボと比較するんじゃなく、ベンゾジアゼピンと比較してくれないとなんとも。


禁忌


CYP3A4の絡みでイトラコナゾール(例:イトリゾール)やクラリスロマイシン(例:クラリス)などと併用禁忌。

また、ナルコレプシー患者には慎重投与ですが、そもそもナルコレプシー患者に睡眠薬というのはあまりないかと思われます。むしろ、健常人がナルコレプシーになるのでは?との説もありますが、どうでしょ。ナルコレプシー患者はオレキシンレベルが低い状態のようですし、薬の作用でこのレベルを下げるということは…?今後の動向に注目。


【日米比較】


日本では20mg錠と15mg錠の発売ですが、米国では10mg錠のみの発売。

これについてはいろいろ事情がありそうですが、そもそもベンゾジアゼピン系の睡眠薬の使用量で日本はダントツ世界一なわけで…(ざっくり欧州の2倍、米国の4倍?)。高齢化のなせる技なのか、はたまた皆保険の弊害か。

また、日本での薬価は15mg錠で89.1円、20mg錠で107.9円ですが、米国では5,000円ほどするようで…。「不眠くらいで病院に行くな!」と米国の民間保険会社は思っているようです。


ひとまず以上です。

ちなみにアルコールとの併用は避けること。精神運動機能の低下が見られます。また、食後すぐの服用も避けてください。吸収率の低下が見られます。


市販後調査の結果が楽しみですね。




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