2013年2月18日月曜日

『「反原発」の不都合な真実』を読んで

「反原発」の不都合な真実 (新潮新書)
藤沢 数希
新潮社
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反原発ブームも下火になりつつある中、以前から気になっていた上記書籍を読んでみました。書いてあった内容で特に広く知ってほしいことを取り上げ、私の意見も付記させていただきました。原発賛成派にも反対派にも、是非読んでほしい一冊です。

なお、私の原発に対する立場は”中立”です。

あえて言えば、「電気を”安全に”、”安価に”、”安定して”、”維持可能な方法で”、”効率よく”届ける派」です。

まず前提としてふたつ。

経済は命を救う


経済と命どっちが大事なんだ、という批判は意味不明。経済的により有利な発電方法が、社会全体でより多くの命を救うのは事実です。

原発と原発”利権”は別問題


あくまで発電方法として原発はどうなのかを書いているので、上記は切り分け、利権については除外。



1.死亡者数は火力発電が最も多く、原発が最も少ない


数字で見る限り、これは事実です。もちろんチェルノブイリや福島での事故による死者数を含めても、です。感覚的には理解しがたいかもしれませんが、「自家用車の事故による死者数よりも、飛行機事故による死者数の方が少ないのと同じ」と言えばわかるのではないでしょうか。

ただ、「自分たちの身に危険があるかどうか」だけを市民の立場で考えると、「火力の方が安全」という結論になるのも無理からぬことかなと思います。採掘リスクや大気汚染などより、50年に一度のメルトダウンの方が恐ろしいというのは(気持ちの上では)よくわかります。


2.低用量放射線のリスクはタバコに比べると極端に小さい


もちろん事故があった原発付近の高用量放射線はきわめて有害ですが、少し離れたところや食品に含まれる低用量放射線について。

「1Sv(シーベルト)被曝すると、5%の確率で放射線を原因とする癌によって死亡する」ので、100mSvでは同0.5%。しかしこれ以下になると、広島長崎でも何も見つかっていないとか。

被曝がなくても癌で死亡する確率が33.3%とすると、100mSvの被曝でこれが33.8%になります。なお、タバコは癌による死亡率を倍にしますから、66.6%です。非喫煙者の私から見れば、喫煙者で低用量放射線を恐れる人のリスク観念は理解不能です。

とはいえ、世界一保険加入が多いと言われる日本人。ゼロリスクを志向する国民性も手伝って、「低用量放射線のリスクは小さい」というのは理解されないと思います。そのくせ今日も車を運転し、タバコを吸う。


3.日本最大のメガソーラーの年間発電量は、原発一基の一日発電量に負ける


原発のエネルギー効率の高さは、物理をかじったことがある人ならなんとなくでもわかるはず。

E=mc^2 つまり、質量欠損分がまるまるエネルギーになる核分裂反応は、C+O2=CO2+熱のような化学反応によるエネルギーや、太陽光や風力による薄いエネルギーなどとは比べ物になりません。

実際、事実はタイトルの通り、太陽光の年間発電量は原発の一日発電量に負けます。「原発をゼロにしてすべて太陽光に」というのはいくらなんでも無理があります。



今後、新興国がどんどん豊かになりがんがんエネルギーを消費するはずです。それがすべて石炭や石油であるといろいろマズイことになりますし、自然エネルギーだけに頼るのも無理そう。ゆえに原発というオプションは残しておくべきだと思います。


ただ、問題が三つ。

1.廃棄物処理の目処が立っていない


概ね納得できる内容でしたが、廃棄物処理の話になると途端に苦しくなります。「原子炉すぐ横の使用済み核燃料プールが、日本の実質的な中間貯蔵施設になってしまっている」と認めつつも、「放射性廃棄物は元来自然物」「放射性廃棄物は火力に比べて圧倒的に少ない」「放射性廃棄物の処理は科学的に何の問題もない」と続ける。

確かに自然界にも存在するけどそんな高レベル放射線は放たないし、火力発電の廃棄物CO2は12億トンで原発の放射性廃棄物は1000トンとか言われても重量だけの問題じゃないし、処理に問題があるから放射性廃棄物がどんどん積み上がっているわけで。

地中深く埋めるにしても、海深く沈めるにしても、新興国の無人の広大な土地に廃棄させてもらうにしても、とにかく廃棄物処理が喫緊の課題ではないでしょうか。


2.核燃料サイクルは破綻している


もちろん高速増殖炉の話も出ました。確かにこれが実現すれば廃棄物の処理もできますし、半永久的にエネルギーを生み出すことも可能。が、もちろんまだ実現には至っていません。


3.地球温暖化って本当?


これについては諸説ありますが、人類が出しているCO2による温室効果なんて、地球の気候変動に比べれば誤差範囲だと私は思っています。もし氷河期がきたらCO2なんて関係なく地球は極寒になるでしょうし。

EUが「CO2による気温上昇、地球温暖化ガー」というためのデータを捏造していたという話も聞きますし、実際のところはどうなのかわかりません。

ただ、もし「CO2=地球温暖化」の前提が崩れたら原発は大きなアドバンテージを失います。もちろんそれとは別に、石炭などを燃やすことによる大気汚染問題はありますけど。




私の希望としては、既存の原発は(もちろん事故の反省を生かした上で)動かして当面のエネルギー問題を解決しつつ、一刻も早く(核燃料サイクルも含めた)廃棄物処理方法を確定させること。そして核融合発電の研究に尽力してほしい。

やっぱり物をメラメラと燃やしてエネルギーを得るよりも、原子核反応によって得られるエネルギーの方が圧倒的に効率はいいわけですし。あとはサイクルやコントロールの問題。核融合なら技術的に難しい反面、放射線や廃棄物などの問題はなくなりますし、安全性の面でも優秀。


ちなみに私の小さい頃の夢は、「核融合発電の実現」でした^^;
心から応援しています。がんばれ科学者たち!


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