2.国営化するメリット
・ 真の医薬分業が実現できる(かも?)
現状はなんちゃって医薬分業で、薬の袋詰め作業のみをアウトソースしていると言っても過言ではない状況ですが、国が運営主体たる病院に医師も薬剤師も公務員として雇われて働くことになれば、状況は変わり得ます。最初のうちは前世代の悪習を引きずるでしょうけど、徐々に真の意味での医薬分業が実現するかもしれません。
・ 過剰診療や過剰投薬の抑制
出来高払い制度においては、検査をたくさんするほど、薬をたくさん出すほど儲かります。国営化により儲ける必要がなくなるので、必要な検査や薬を、必要なだけ使うことになります。
・ 本当の意味で治療するインセンティブが生まれる
「患者は生かさず殺さず」と言われるように、病院にとって病気は治らない方が儲かります。国営化により儲ける必要がなくなるので、さっさと治ってもらって二度と来ない方がよくなります。
・ 医薬品流通の効率化
面分業というと聞こえはいいですが、実際にはひとつの病院の処方が広域に散らばってしまうのは、医薬品流通の側面から見ると非常に非効率です。院外処方の廃止により、これが是正できます。
・ 患者の利便性向上
当然ながら、診察が終わった後処方せんを持って薬局に行かなくていいので二度手間がなくなり、患者にとっては便利になりますね。
・ クラウド医療システムの導入がスムーズに
以前以下の記事で書いた通り、近いうちにクラウド医療システムや調剤ロボットが導入されるはずです。既存のシステムのままだと薬剤師の失業や、民間企業同士で個人情報を共有うんぬんなどの問題がありますが、国営になってしまえば一気に解決します。
関連記事:薬剤師が将来食いっぱぐれる理由
3.国営化するデメリット、課題
・ 自助の精神
つまり、予防医療への注力です。暴飲暴食、不摂生に喫煙などを繰り返し、負担は国民全員で〜なんて制度は絶対に続きません。生活習慣の改善や予防接種の徹底、風邪についての正しい知識の啓蒙、強制的な定期検診導入などなど。
関連記事:風邪で抗生物質を飲むな!熱も下げるな!
当然すべてを国で抱える以上、財源問題が出てきます。診療報酬はさておき、調剤報酬の7〜8割は医薬品代です。ここに大きくメスを入れる、というかナタを振り下ろす必要があるのは当然。これはまた改めて書きます。
・ 非効率の温床
国営の元で公務員が働くとなると、当然非効率の温床になります。パーキンソンの法則を知らなくても自明のことですね。
・ 優秀な人材を惹き付けれない
公務員は安定しているとはいえ、優秀な人間はこのような職場を好みません。むしろ、上記の性質も手伝ってどんどん離れて行くかも?
・ 新システムで求められる能力が今と違う
例えば薬剤師。今の薬局薬剤師を新体制の医療システムに放り込んでもほとんど役に立たないはず。これを個人の責に帰すのか国がサポートするのか。
・ コンビニ受診への負のインセンティブ
無料だからと好きなときに受診する人が増えることが予想されます。何らかの負のインセンティブが必要かもしれませんが、これを窓口負担に転嫁すると本末転倒です。
挙げればいくらでもありますが、検討する価値は十分あると思います。何でもそうですが、「デメリットがあるからやめよう」ではなく、「デメリットとメリットを天秤にかけて、どっちを選択するか?デメリットはコントロールないし解決できないか?」と考えることが大切です。
とはいえ、現実的には実現するとはとても思えません。実現によって大きく損をする層が強い政治力を持っているというのもありますが、課題も多くコントロールも難しいとなると、現状維持に強い魅力があるのは当然です。
関連記事:「調剤技術料って何?つめるだけでしょ!」と拒否されたら