TVCMで「眠くならない痛み止め」を謳っていたり、「痛み止め飲んだから眠い…」と言う人がいたり、なぜか”痛み止め=眠くなる”と思っている人は意外と多いようです。
はっきり言いましょう。
痛み止めを飲んでも眠くはなりません。
先日、10年以上「眠くなる」と思い込んでいる人の呪いを解いてあげたところ、眠気は出なくなったそうで。プラセボ効果すげえ。
一体なぜこのようなデタラメが流布されることになったのか。考察してみました。
痛み止めの成分は、いわゆるNSAIDs
NSAIDs(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)、つまり非ステロイド性抗炎症薬のこと。市販薬(以下OTC)でも医療用でも、痛み止めの成分はすべてこれです。
癌性疼痛に用いる麻薬性の鎮痛薬もありますが、ここでは割愛。
NSAIDsの副作用は?
最も有名な副作用は消化器症状。これは、NSAIDsがシクロオキシゲナーゼを阻害することによる胃粘膜産生減少の結果であることは薬学部一回生でも知っていること。
対して、眠気など中枢性の副作用があるという話は寡聞にして存じません。論より証拠ということで、成分ごとに見ていきましょう。
ブルフェン錠100mg/200mg/顆粒20% 添付文書pdfより抜粋
総症例17,485例中、副作用が認められたのは532例(3.04%)690件で、その主なものは消化器系(胃部不快感、食欲不振、腹痛、悪心・嘔吐等:2.99%)、発疹(0.20%)、そう痒(0.14%)、顔面浮腫(0.15%)等であった。
成分名はイブプロフェン、おそらくOTCで最も多く使われている成分。見ての通り眠気はありません。繰り返しますが、眠気の副作用が起こるはずという薬理学的な裏付けもありません。
ロキソニン錠60mg/細粒10% 添付文書pdfより抜粋
総症例13,486例中副作用の報告されたものは409例(3.03%)であった。その主なものは、消化器症状(胃部不快感、腹痛、悪心・嘔吐、食欲不振等2.25%)、浮腫・むくみ(0.59%)、発疹・蕁麻疹等(0.21%)、眠気(0.10%)等が報告されている。
お?0.1%ながら眠気ありますね。
ボルタレン錠25mg 添付文書pdfより抜粋
承認時までの調査例数1,474例中、160例(10.85%)に239件の副作用が認められた。症状としては胃部不快感等の消化器症状139例(9.43%)が主なものであり、他に、浮腫14例(0.95%)、発疹等の皮膚症状23例(1.56%)等がみられている。なお、市販後の使用成績調査では、35,653例中2,749例(7.71%)に4,545件の副作用が認められた。症状としては、消化器症状2,365例(6.63%)、ついで浮腫などの全身症状215例(0.60%)、皮膚症状172例(0.48%)などがみられている。(承認時まで及び市販後使用成績調査の累計)
イブプロフェンと同じく、副作用のほとんどが消化器症状。眠気はナシ。
3つしか見ていませんが、少なくとも”痛み止め=眠気”というイメージはどうやら違うぞ?というのはわかるかと思います。
じゃあ何が眠くなるの?
これは私見ですが、おそらくナロンエースのように成分にブロムワレリル尿素を含んでいる鎮痛薬のイメージが強いせいかと思います。鎮静作用を期待して頭痛薬に配合されているようですが、これが眠気を起こすというのは当たり前の話ですね。
ゆえに、ブロムワレリル尿素を含んでいない、その他の鎮痛薬が眠気を起こすはずもないんですが、「眠くならない頭痛薬」を謳うTVCM効果もあり、”痛み止め=眠気”という固定観念が形成されたのではないか、と思います。
大正製薬 (2012-11-01)
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以上です。
「痛み止め飲んだら眠くなるからなぁ」と言ってる友人が近くにいたら、呪いを解いてあげてください。
ちなみに類例として、”頓服(とんぷく)=解熱薬(熱冷まし)”というのもあります。
確かにほとんどの人にとって子供時代にもらう頓服薬といえば解熱薬ですが、”頓服”という言葉にはそのようなニュアンスは含まれておらず、正しくは「症状があるときに服用せよ」です。吐き気止めも頓服ですし。
ゆえに、「熱上がったら頓服飲めばいいじゃん」と言うのは正しくありません。
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